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2009/01/18

フロー重視の住宅政策

今後当分の間は、日本は人口減少社会であり、世帯数は減少する。よって、単純な住宅数については、現状以上は基本的に必要ない。その一方で,ネットカフェ難民や派遣村騒動のように,明日の住まいに困窮する者がいる。
 とするならば、とりあえず政策資源は、次の要素に投入されるべきということができるだろう。

  ・市場のミスマッチの解消(特に、地域偏在の解消)
  ・居住の質の向上(特に、低いレベルの底上げ)

 ただし、「地域偏在の解消」は、過疎対策や産業立地の調整など、国民の生活拠点選択を大きく変動させることが必要であると同時に、国全体の都市(配置)政策全般の中で検討される必要がある。そこで、大規模な人口移動を前提とせず、個々人の現住地において、良質の住宅を確保できるような政策として、どんなものが必要なのか考えてみたい。


 改めて再確認すれば,長期趨勢的に人口減少国家であり、かつ、目下のように「明日住むところがなくなる」という者、あるいは劣悪な住居に追い込まれてしまう世帯が増加するという世情における政策目標として、従来型の「優良な住宅ストックへの投資拡張」(都市整備を含む。)を政策目標として設定するという発想自体が、日本のおかれているデモグラフィックな条件と適合的でないと言えるだろう。

 これから必要なことは、「住宅賃貸市場」の「機能強化」だろう。つまり,住宅ストックの蓄積の強化ではなく,住宅への居住サービスというフローをより,低廉なコストで効率良く使う仕組みを構築することなのだと思う。つまり,品質に比較した賃貸料や賃貸条件(敷金条件、保証人条件)が利用者に有利な方向に動かない現状をどう打破するか、ということ。

 ごく短期的には、まず雇用対策の一環として,失業者への賃貸住宅提供環境の改善が必要であり,次のような施策が試みられるべきであろう。

・公的機関の保有する遊休住宅ストックの解放

→公的住宅ストックの空き情報等をハローワークで提供

→派遣労働からの解雇等特に劣悪な条件下にある者に対し、再就職上不利にならないように安定した住所地を提供する(これにより、例の低額給付金も受け取れる)べく,公的住宅ストックにおける無償居住期間を3ヶ月以上確保


・私的住宅ストックの有効利用

→雇用対策で講じられている地方特別交付金事業や基金事業において、派遣労働者等を追い出すことで「空き」になる民間住宅を、公的に借り上げる事業を認める

→派遣労働者等に住居を提供した住宅オーナーに対し、引き続き解雇された労働者に住居を(低廉に)提供し続ける場合に、固定資産税を減免(類似目的の助成は,雇用調整助成金で措置されようとしている)


 中期的には、賃貸条件(単純な家賃レベルだけではなくて)において、低所得者の入居・住み替え等の障害となっている条件、より具体的には、入居時・転居時に必要となる「敷金・礼金」と「保証人」というハードルの高さを低くしていくことが,課題となるだろう。
このためには,「敷金・礼金や保証人を求めない賃貸住宅事業に対する政策支援(おそらくは,金融支援)」も考えられるが,より本質的な解法は,入居者リスクをカバーするコストを下げること。敷金・礼金や保証人は,つまるところ賃料未払いと原状復帰費用の発生という「事故」に対する保険なのだから,これを公的にシェアする仕組みを作れば良い。
 問題が多いとの指摘もあるが,民間の賃借人保証会社に対する公的関与を強める形で,入居者リスクをプールして引き下げるということもあり得よう。また,より直接的に,生活保護世帯については,相当の範囲で,入居者リスクを生活保護(あるいは失業保険)の中で賄うことを宣言すれという手だてもあり得よう。

 
 さらに長期的には,低所得層に提供される賃貸住宅の質の向上が問題となる。この点では,「低コストアパートに対する設備投資減税」などの改修インセンティブの付与もあるが,より抜本的には、URや自治体の住宅供給公社等が、子育て世代や単身若年労働者向けの30m程度の住宅を、既存住宅ストックを活用して大量に提供するという方策が有効。いわば,私的に供給される質の低い住宅を「民業圧迫」の形で市場から追い出し、私的に建設・維持される住宅の質を上昇させるように、公的住宅供給が民間ディペロッパーを下から突き上げる仕組みということができる。

 ただし,これらいずれの仕組みも、地方公共団体が、管轄下のどの地域に住民という担税力を集めたいかという観点で、町作りの構想、職住接近,生活支援サービス拠点との接合の構想と整合的に進めることが適当であることから、各種の独立行政法人の窓口と市町村が連携することが重要であり、国の資金を交付税等のメカニズムで分配する形で実施する方が良い。

 よって、以上を生理すると,今後の日本における住宅政策の具体的な目標は、次のようになる。
  ①遊休住宅ストックの有効利用の確保(公的ストックの活用と私的ストックの取引)
  ②低所得世帯の入居者リスクのシェア
  ③現状の住宅の機能性・可住性の維持(メンテナンス)への投資確保
最低水準の住宅の質向上への投資確保(ロールズ的価値観)
 
 しかるに,今のところ提示される住宅政策とは,既存の施策の延長であり、住宅ストックへの投資を維持・加速するという視点が徹頭徹尾貫徹している(例えば,これ)。

 これらの政策の背景にあるのは、住宅ストック投資の「拡張」によるトリクルダウン論という景気刺激策(思想)であるが,このような発想は、
 ・住宅ストックの数量的需要が人口学的に減少する日本においては、スットク投資は無意味であり、これを強行すれば住宅バブル(将来的なローン破綻潜在者の蓄積)を招く
 ・住宅ストック投資への税制面、金融面での優遇は、資金保有者(信用力の高い者を含む。)への助成政策であり、逆進的な面が強い
という観点から、不適当である。

 とにかく、スットク重視とトリクルダンウン論という発展途上国的発想から、既存の住宅ストックから生まれる住宅サービスというフローの質の向上と円滑流通(フローの資源配分の効率性重視)という先進国的、成熟国家的発想への転換が必要。

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