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2009/01/14

目下の労働問題を検討する視点

1.避けるべき検討過程における「陥穽」「地雷」

・恒久的制度改正と緊急時対策を峻別する
→ルール・特別措置を廃止するコミットメントの獲得方法

・マクロ経済政策と雇用政策(法制度改善)との峻別
→ネイティブで大量雇用を作り出すのは、マクロ経済政策であり、雇用制度改善ではない。
 ただし、雇用制度が景気変動の振幅に与える影響については慎重な配慮必要。

・ルール変更には、パレート改善、ヒックス=カルドア改善、所得の一方的移転となるものがあり、この点を峻別。


2.雇用政策検討が当面目指す目標

・緊急対策として、失業が大量に発生することを、如何にして防ぐか。
→緊急対策であるので、「悪影響」が恒久化しないような時限的・徳政令的であって、政治的反発の少ない選択肢を提案しなければならない
→特に、この仕組みは、所詮「所得の一方的移転」となる蓋然性が高いので、政治的正当性の獲得のための倫理的ロジックの精査が必須

・恒久的対策として、労働分配率の向上を如何にして実現するか。
→労働分配率の趨勢的低下は、人身の荒廃を招く。この点を経済のグローバル化を免罪符にして思考停止に陥ってはならない。
→労働分配率を上げるためには、①資本・経営者ストックの供給を増やし、労働の相対価格を上げる、②労働集約的で海外との競争の相対的に少ない産業を促進する(おそらく、それは、幼児保育、学童保育、高齢者介護、障害者支援、医療などの生活支援サービス分野)
→さらに、セーフティネットを再構築して、労働の留保価格を引き上げること


・恒久対策として、人口減少国家における人的投資を如何にして涵養蓄積するか。
→情報技術の進展により組織マネージの効率性が上がっているので、いわゆる組織特殊的人的投資は価値が無くなりつつある以上、自然体で、経営者の人的投資インセンティブが高まることはあり得ない
→そもそも、人的投資が必要な分野とはどこなのか。ちなみに、ケアワークは非常に個別性の高い人間相手の労務であるので、高度な情報処理スキルによって、顧客満足を大きく向上させることができることから、人的投資が有望な分野
→これらの分野の経営者に対し、人的投資インセンティブを強く与える仕組みとして、従業者と経営者の人格的一体性の確保、資本拠出者から経営者への圧力を緩和する組織法制などが必要
→また、人的投資を優先する産業分野における起業=雇用の増加のためには、当該産業に対する潜在需要を顕在化させることが必要であり、生活支援サービスへの公的資源投入を大幅に増加させること

・恒久対策として、働き方の多様性を如何にして確保するか。
→正規雇用者の残業率はつい最近まで恒常的に高止まり。そのためワークライフバランス論浮上。同時に、長期労働の緩和という視点も込めて、ワークシェアの議論も浮上。
→日本の硬直的、組織間没的な正規雇用者の労働条件は、結果的に辺縁労働力との二極分化を招き、失職者、ワーキングプアと、これらの存在によって脅される長時間労働者とを生み出している
→その本質的な要因は、経営側の裁量を広く認める人事権(就業規則及び処遇処分)と解雇権濫用法理による正規労働者の囲い込みにあり、この2つの制度はコインの裏表
→解消方策としては、①就業規則の拘束性の緩和、特に兼職制限の原則的禁止(労働者にとって不利なものだけを無効とする片面的強行規定化)、②パートタイム労働者に対する社会保障参加イコールフィッティングの提供、③生活支援サービス等他の企業での労働参加についての分離課税と累進強化、④年金制度、退職所得課税における長期雇用優遇の見直し、⑤残業割増率著増、法人課税における外形標準課税の強化など労働者を長時間働かせることに対するディスインセンティブの付与
→大事なことは、複線的な職業人生を日本人が過ごせるようにすること


3.目標にしてはいけないこと
 雇用安定を最優先として、雇用を安定化させること、つまり、解雇のコストを「一律に」高くするような、制度ルール変更は、現状において「正規雇用」になっている強者を、さらに強く保護し、現在保護の網からあぶれた弱者、これから労働市場に参入する弱者を、より弱い立場に追い込み、労労対立を煽るだけになる。


4.個別的に留意すべき事項

①派遣法制
 派遣法制については、そもそも一般労働者派遣事業という事業類型がなぜ必要なのかという点についての精査が必要。期間の定めのある直接雇用と何が違うのか。結局、「期間の定めのある直接雇用」に経営者にとって不合理な面があるので、その逸脱として使われているのではないか?
 直接の有期雇用ルールが変われば、不自然な3面契約となる一般労働者派遣事業は不要になるのではないか。
 本来、他社雇用は、就労調整のために必要な情報マッチングのために必要としか思えず、その場合には、上記の意味での有期直接雇用の柔軟化と職業紹介の効率化が本丸であり、いわゆる登録型と称される一般労働者派遣は、いたずらに間接コストを発生させているだけではないのか。

②制度のきめ細かさ
 制度の再構築を検討する場合に、類型化と一般ルールの組み合わせによって、穴はなくとも肌理の細かいルール制度を設計する手間を惜しんではならない。
 社会保障への参加ルールについては、制度が歴史的に縦割りに作られている(歴史的経緯による過度の類型化の)ため、類型間の狭間に落ちる者が生じがちであり、そのような「狭間」を訴訟によって埋めるということの繰り返しとなっている。

 一方、給付ルール(生活保護を含む)については、当該制度類型内において、制度の形骸化により過度の一般化の悪弊に陥っており、本当に必要なニーズへのマッチがなされていない。ミーンズテストは、一部論者が主張するのとは逆で、もっとコストをかけて丁寧に行うべきなのである。
 職業訓練とリンクした失業給付についても、その支給条件をもっと緩和し、かつ、職業訓練状況のモニタリング/カウンセリングをもっと丁寧に行うべきなのである。ここ数日の報道では、くだんの派遣村の村民に対し、「ハローワークに行けば、求職はあるのに、仕事のえり好みをして、就職しない」等の批判が寄せられるケースも出てきている。しかし、職業選択というのは、非常に慎重な検討が必要であるし、能力の涵養には時間とコストが必要なのである。この点、非常に機械的な裁定では問題が多い。

 労働ルールについては、労働基準法、最低賃金法等の雇用に関する規制(一部は強行規定)と団体協約(や就業規則)によって構成されているため、労使関係の個別化による厚生改善がなされない状況となっている。労働条件規制について、情報コストの観点から、常に個別事情を全て斟酌して、その合理性を判断することが難しいものの、きめ細かい類型化によって、この一刀両断的な一般ルール(集団ルール)の適用される範囲を縮小するような制度設計上の手間を惜しんではならない。
 例えば、ホワイトカラーエクゼンプションなども、適用対象を単に年収で二分でするという乱暴な類型化ではなくて、もっと職能について細かく考える、あるいは、残業手当についても段階化する等のきめ細かい設計をすべきであったと思われる。それが、ひいていは職能描写(ジョブ・スクリプション)を進め、組織内での人格的支配のような経済厚生を引き下げる「悪弊」の防除になったのではないか。

 なお、上記のうち、労働条件を定める制度ルールと社会保障参加ルールについては、制度であらかじめ肌理細かく類型化することで行われるべき問題である。
 一方、給付や職業訓練の問題は、より多様性、個別性の高い現場裁量、現場のエンパワーメントの必要な仕組みによって、きめ細かさが達成されるべき問題であるので、いかにきめ細かい対応をし、真のニーズにマッチした給付をしたかを、事後的に補足する(政策評価)ことで、当該事業に従事する者の業務上の評価を行うことが必要となる。


③雇用制度のビルトイン・スタビライザー機能
 それが日本の典型であったという「通念」が幻想であったとしても、解雇権濫用法理によって保持された長期雇用は「辞めさせにくく、雇いにくい」という性質を持っているので、景気変動のビルトイン・スタビライサーとして機能していた。
 逆に、景気後退局面では、派遣労働、そして有期労働という、景気安定化機能のない雇用形態において、問題が集約的に現れるのは当然といえば当然である。ただ、これらの形態のウェイトが低い場合には問題が大きくならないが、ウェイトが大きくなると、景気後退を助長する要因となることは論をまたない。
 そこで、雇用制度の改変を検討する場合には、このビルトイン・スタビライサー機能をどう評価するのかという問題に若干意を配る必要がある。

 近時の様々な「構造改革」はフラット化を進めるものであり、法人税や累進所得税の改変により税-財政の当該機能が弱くなっているとも言われる。失業保険も当該機能を有していたが、そのカバレッジの低下によって、機能を弱めている面がある。
勿論、ビルトイン・スタビライザー機能を強化すると、景気後退時に景気の下支えにはなるが、景気拡大期には雇用抑制効果を持つことから、拙速に安定雇用を強化すべきと評価することは禁物である。
 雇用を企業内に留めることの方が良いのか、失業給付等の社会保障の形で景気悪化時の下支えをして、社会全体で景気の影響の平準化を進めることとするのか、検討が必要である。

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