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2009/02/23

またまたタイミングのづれた法律の見直し論議

派遣切り賠償 法明記へ 「責任」さらに強化 政府・与党方針

拡大する派遣労働者の契約の中途解除に歯止めをかけるため、政府・与党は、派遣先企業が事前の予告なしに中途解除した場合、派遣元や労働者に対し、損害賠償を支払うことを労働者派遣法に明記する方向で検討に入った。損害賠償に関しては、厚生労働省が定めた派遣先が講ずる指針に盛り込まれているが、順守されないケースが増えているとみられ、法律に格上げし、派遣先の一方的な契約解除に歯止めをかける。


 以前のエントリー「タイミングのずれた派遣法制見直し」での嘆息と同じため息が出てくる。
 結局、緊急時に講じるべき措置と平時における「あるべき姿」との混濁がある。

企業間の労働者派遣契約は、単なる企業間の取引契約であり、派遣法上も実体法上の特別な規律、つまり契約の内容を「拘束」する任意規定や強行規定は存在しない(派遣先企業が派遣労働者を労働基準法や労働安全衛生法に抵触するような労働者の扱いをした場合の解除権の設定等があるだけ)、いわば民法典がそのまま適用される契約であった。
 だから、契約の一方的解除に伴って、損害賠償が他方当事者に発生するのは当たり前であったはず。この点、上記の記事の中で、「法律に格上げされれば、派遣雇用に対する派遣先の責任は重くなり、「派遣切り」抑制につながる期待は大きい。」としているが、損害賠償の権利義務関係自体は、既に法的効力を有している。

 目下の情勢において、派遣労働契約を契約期間満了前に解除しても、派遣元企業に何の賠償もされないのは、
 ・そもそも、労働者派遣契約において、損害賠償が派遣元企業によって放棄されている
 ・契約上損害賠償の責任が規定されている、あるいは少なくともその権利が放棄されていないが、派遣元企業が取引関係を円満に維持する観点から、賠償請求をしない(あるいは個別に放棄する)
から。

 まあ、「損害賠償を支払うことを労働者派遣法に明記する」というのは、損害賠償の放棄を禁じるという趣旨の強行規定を作るということなのだろう。例えば、消費者契約法では、

 

第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

として、債務不履行(契約の中途解除も債務不履行である)に起因する賠償責任免除=放棄の条項を無効としている(逆に、消費者の損害賠償責任を免除する条項は有効)。

 しかし、損害賠償は派遣元企業が派遣先企業に請求しなければ、そもそも、この国では実現しない。派遣事業者が派遣先企業と取引関係を重視すれば、実際には行使されることはないであろう。裁判費用もかかるし。
 さらに、立証(要件事実)上の問題として、派遣契約を中途解除した場合に積極的に立証しなkればならない「損害」とは何なのかが不明。例えば、派遣事業者にその契約で派遣する労働者の雇用義務が残置し、そのための給与等が派遣事業者の「損害」となるのだろうか。しかし、実際には、派遣事業者は、労働者を解雇しているのだから、この意味ので「損害」は発生していない。
 また、一般的には、債務不履行による損害賠償は履行利益の補償だから、その履行利益分、いわば労働者のピンハネ分が損害として認定されることになるというのだろうか。
 
 より深刻な問題は、このような強行規定を作ると、中途解約の損害賠償のリスクから、労働者派遣契約がさらに細分化されだろうということだ。そうすれば、仮に立証上の負担を派遣事業者がクリアしても、損害自体の絶対額を小さくすることができるから。

 よって、労働者派遣契約という企業間契約の中途解除に関する損害賠償を強行規定化しても、ほとんと意味がないだろう、つまり平時の法律としても殆ど意味がない。

緊急対策としても、ほとんど意味がなかろう。特に、強行規定化をどのタイミングで行うかによると言え、現在成立している派遣契約には、適用されないだろう。とすれば、まさに現在中途で失職してしまった人々、近々に失職する人には、適用されないということだ。それでは、この法律改正は、誰を救おうというのだろうか。

 全くタイミングを外したおかしな議論だ。


追記

  大竹教授のブログでは、上の記事とはちがう文脈ではあるが、次のように論じられている。


有期労働契約研究会~大竹文雄のブログ~より

 もし、これが有期雇用の雇い止め規制を強化するものであれば、次に日本の景気が回復しても雇用の回復はずいぶん遅くなってしまうだろう。日本で非正規雇用が増えてきた理由についての基本的理解が間違っているのではないか。正規雇用の雇用保障が厳しいからこそ、有期雇用契約が増えてきたのだ。有期雇用契約の雇い止めが厳しくなれば、その上限の前で雇用契約が終了することが増えてくるだけだろう。結局、有期雇用には非常に短期間の雇用しかなくなってしまい、結果的に不安定雇用が増えるだけになるはずだ。

  全く指摘の通りである。どうも、この有期雇用契約に対する本質的「白眼視」が、法制度の議論を不適切な方向に推し進めているように思えてならない。
 僕自身は、雇い主を主体的に選択できるような複数勤務の有期雇用といいうのが、一つの理念型だと思っているので、雇い止め云々という形で、強制的に安定雇用を捻出しようという発想にはついて行けない。
 「安定」雇用を作り出すのは、労働需要の喚起であり、産業政策誘導とマクロ経済政策の役目だと思う。

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