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2009/09/18

行政組織を課題(ミッション)志向にするための行政組織法制の見直し

1.組織帰属と「課題帰属」の分離
①組織(「箱」)が先か、任務(ミッション)が先か
 国会行政組織法では、「行政機関の設置、廃止、任務及び所掌事務」という共通見出の下に、第3条と第4条において行政組織の法定原則を規定している。第3条では、組織編成のハードウェアについて規定し、第4条では組織のソフトウェア、つまり行政組織の任務及び所掌事務の法定について規定している。
 この規定順が、行政組織の抱える本質的な問題を契機となる思考法を象徴的に表している。つまり、「まず固定的な組織があって、その組織に任務が割り振られる」という思考法である。

 現代的な経営組織論では、コンティンジェンシー理論及びチャンドラーの「組織は戦略に従う」テーゼにあるように、「理想的」な静態的組織の在り方、つまり、理想的な省の機能分担、究極の姿などは存在しないとするのが定説となっている。
 前提与件(例えば、以前から議論している、人口構造、産業構造の変化などが典型)の変化や、時に政治的意思(要すれば、時の首相、政権党が何を政治的課題のトップと考えるかという優先順位)に変化によって、チャンドラーのいう「戦略」、行政組織法の文脈では、「任務と所掌事務」及びその優先順位が変動する。この変動に応じて、組織の在り方も動態的に変化すべきということである。その動態の在り方も、ある時点における条件に合致した最適解が発見されるというよりも、日々に変動に対して、「トライ&エラー」で常に手直しをするという方策が、合理的なのだ。
 ということは、まず「任務」→必要な所掌事務→そのための組織=人員という思考回路が健全ということになる。

②民主的統制
 勿論、行政機関に充当できる人員資源は、税金によって賄われるものである以上、任務の必要性に応じ、無尽蔵に存在する訳でもないし、行政府の恣意によって組織が編成されるというのも、合理的、効率的組織配分と運営を図るという観点から問題であることは言うまでもない。
 そこで、行政組織法制においては、行政組織の存廃をどのように民主的統制に服させるか、つまり、国会による組織(存廃)統制を、どの程度、そしてどの様に図るかということが、重要な論点として提起される。
この点につき、現在の通説的見解とされる「民主的統治構造説」では、「憲法第41条の定める国会中心主義を根拠に、行政組織の編成権は国会にあり、組織規範についても原則として法律主義が妥当する」「なお、民主的統治構造説によって、行政組織の編成をすべて法律事項とするのではなく、細部について行政の自己決定に委ねることは認められている」(桜井・橋本『行政法(第2版)』p41)とされている。
 この見解を反映して、現在は、各省設置法及び内閣府設置法により行政各部が設置さて、その事務分担が法定されており、その業務を行政各部の長たる「主任の大臣(内閣法第3条)」の権限が法律によって法定されるという形で、組織統制が図られている。

③問題点
 問題は、現行の各設置法の在り方が、「箱」としてのハードウェアを法律によって規定するという構成となっているが故に、組織編成が硬直化し、ミッション・クリアのための組織という組織編成本来の有り様が、どうしても没却化され、「箱」が既得「権域」化するということである。
この非効率を生み出す源泉である行政組織法制の根本を見直し、ミッション志向の組織、つまり、組織に課題が帰属するのではなく、課題に組織が帰属するという、ミッション志向の組織法制を構築する必要がある。


2.行政大臣の職務範囲の柔軟性確保
 これらの問題点を解消する方策として検討されえるのが、行政機関内部の個々の部署の配置を柔軟化し、庁、局といった行政事務分掌の基礎ユニットを行政事務担当の行政大臣に配置するという仕組みである。

 特に、政権交代が状態化した場合、当該政権政党が目標とする価値が、選挙毎に変化するのであるから、民主的統制という観点、つまり民意の反映という観点から、政権の課題設定の優先順位が行政運営に適切かつ迅速に反映されるべきものであり、とすれば、行政組織の運営も課題単位=プロジェクトベースのものとなるべきであろう。そうならないと、行政の組織運営が、選挙前の組織立法によって、過度に統制されつづけ、政権交代による政策変更に要するコストを不必要に増大させることになろう。

 その一方で、行政事務の分担管理の準拠枠が消滅してしまうと、組閣の度に大臣間で業務の分捕りと押し付け合いが生じることになる、その結果、組織やポストの膨張と余剰ポストを招くことになることは必定であろう。とすると、行政資源の管理枠、つまり人的資源の調達上限枠として、総定員法の大枠縛りの下、一般公務員の所属枠(人員管理システム)としての省制は維持されざるを得ないであろう。

そこで、国会行政組織法を改正して、行政大臣たる「主任の大臣」に対し、他の「主任の大臣」の所管する行政事務の一部を必要に応じて再配分し、その事務遂行のために必要な「庁」や「局」に対する命令権限を与えるという方策があり得る。例えば、地球温暖化問題が本質的に重要な政策課題であるというのであれば、環境大臣の下に、エネルギー行政を事務配分し、経済産業省の資源エネルギー庁という組織を配置するというもの。

 要すれば、省という単位は、基本的に公務員の人事管理上の組織単位ということになり、職務遂行上の機能単位としては、大臣という政治的人格を結節点として、緩やかに繋がったり離れたちするようになる。
 ただし、現在98の官房・局があり、これに外局たる庁をあわせると100を超えるミッションクリアのための組織単位が存在することにある。この100を超える組織単位を、組閣の度に、最大17人の閣僚に配置するとなると無限の組み合わせが存在することになって、収集がつかないことになる。そこで、一種のデフォルトの事務配分として設置法上の「省」組織を構成した上で、内閣総理大臣の意思(できれば閣議決定を不要とする、総理の個別意思)で、特定の庁や局といった組織をミッション毎に、大臣に「例外的」かつ「迅速に」配置できるようにするという方策が適当と思われる。

 もちろん、ドイツの憲法学者・公法学者であるカール・シュミットのように、静態的官僚制(身分制秩序に裏付けられた官僚組織の安定)を、人権保障、国家の安定という立憲主義的発想から、浮動的な民主主義との対比で重視する議論もあるが、目下の日本では、もっと「柔らかい」官僚制が、日本という国家にとっても、そして、官僚制内の個々人にとっても重要であろう。
 いずれにせよ、内閣、閣議、大臣という憲法上政治部門と位置づけられる機関及び実質的に憲法体制(少なくとも、立法と行政の部門における)の最も重要な機関である与党と、省組織の在り方、特に組織編成原理の柔軟性確保と決定権限(法令上ではなく、実質的な)配分を、改めて検討する必要がある。


<補論> ○上記2に掲げる「ミッション志向の組織法制」のための条文改正
   註:下線部が追加される部分

○内閣法
第3条の2第1項
 内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関して、特に必要がある場合において、主任の大臣以外の大臣に対し、特定の行政事務の分担管理することを命じることができる。

 第2項
前項の規定により分担管理することとなる行政事務の遂行に必要となる権限は、同項の内閣総理大臣の命により当該事務を遂行することとなる大臣に、当該事務の主任の大臣から委任されたものとみなす。

○国家行政組織法
第5条第1項
 各省の長は、それぞれ各省大臣とし、内閣法にいう主任の大臣として、それぞれ行政事務を分担管理する。ただし、同法第3条の2の規定により内閣総理大臣によって他の国務大臣が分担管理すべき事務(以下「内閣特命事項事務」という。)とされた行政事務があるときは、この限りでない。 

第10条の2第1項
 前条の規定にかかわらず、内閣法第3条の2第1項の規定により、内閣特命事項事務を分担管理すべきこととされた大臣(以下「特命大臣」という。)は、内閣特命事項事務を管轄する庁(第2条第2項の「庁」をいう。」)又は局(第3条第1項の「局」をいう。)の事務を統括し、その職員の服務(その任命を除く。)について、これを統督する。
第10条の2第2項
 前項の場合において、各省大臣は、その機関の事務であって、内閣特命事項事務を統括せず、内閣特命事項事務を管轄する庁及び局の職員の服務(その任免を除く。)について、これを統監しないものとする。

第11条第2項
 特命大臣は、分担管理を命じられた内閣特命事項事務について、法律若しくは政令の制定、改正又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めなければならない。

第12条第2項
 特命大臣は、その分担管理を命じられた内閣特命事項事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、当該内閣特命事項事務を主任の行政事務とする各省大臣に対し、案をそなえて所要の省令を発することを求めることができる。
第12条第3項 
 各省大臣は、前項の規定による特命大臣からの請求があったときは、所要の省令を発しなければならない。

第14条第2項
 特命大臣は、その分担管理を命じられた内閣特命事項事務について、公示を必要とする場合においては、当該内閣特命事項事務を主任の行政事務とする各省大臣に対し、案をそなえて所要の告示を発することを求めることができる。

第14条第3項
 各省大臣は、前項の規定による特命大臣からの請求があったときは、所要の告示を発しなければならない。

第14条の2第1項(現行の第14条第2項を移行)
第14条の2第2項
 特命大臣は、内閣特命事項事務を管轄する庁及び局並びにその職員に対し、訓令又は通達を発することができる。
第14条の2第3項

 各省大臣は、内閣特命事項事務については、訓令及び通達を発しないものとする。

○国家公務員法
第55条の2
 各大臣は、内閣法第3条の2第1項の規定により特定の行政事務を分担管理すべきことを命じられた他の大臣が国家行政組織法第10条の2第1項の規定によりその服務を統監督することとなる職員について、任命権を行使するときは、当該他の大臣の意見を尊重して、これを行使するものとする。

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